歯科医院を経営する上で、利益率は最も重要な経営指標の一つです。しかし、「自院の利益率が適正なのかわからない」「どうすれば利益率を改善できるのか」といった悩みを抱える歯科医院経営者は少なくありません。
本記事では、歯科医院の利益率について業界平均データから改善方法まで、経営者が知っておくべき情報を包括的に解説します。
歯科医院の利益率の現状と業界平均データ
歯科医院の平均利益率
歯科医院の利益率は診療形態によって大きく異なります。最新の業界データによると、以下のような傾向が見られます。
診療形態別の平均利益率
- 保険診療中心の歯科医院:約 25%
- 自由診療を含む歯科医院:約 45%
- 業界全体の平均:約 32.8%
令和 3 年に実施された第 23 回医療経済実態調査では、個人開業の歯科医院の平均的な数値は以下の通りです。
個人開業歯科医院の平均データ
- 年間売上:約 5,000 万円
- 年間利益:約 1,600 万円
- 利益率:約 33%
この数値は、歯科医院が適切に経営されている場合の一つの目安となります。
個人開業と医療法人の収益構造の違い
歯科医院の収益構造は、個人開業と医療法人で大きく異なります。
個人開業医院
- 保険診療による売上:82.9%
- 自費診療等による売上:14.6%
- その他:2.5%
医療法人
- 保険診療による売上:70.6%
- 自費診療による売上:26.9%
- その他:2.5%
医療法人の方が自費診療の比率が高く、これが利益率の向上に大きく寄与していることがわかります。
売上規模別の実態
歯科医院の売上規模について、2019 年に決算を終えた歯科診療所 332 件の調査では、以下のような結果が出ています。
- 医業収益 1 億円超の歯科診療所:10.5%
- 医業収益 5,000 万円以下:約 60%
多くの歯科医院が中小規模で運営されており、1 億円を超える大規模医院は全体の 1 割程度に留まっています。
歯科医院の利益率が低くなる 3 つの主要原因
歯科医院の利益率が低くなるパターンは、主に以下の 3 つに分類されます。
1. 全体的な売上不足
特徴
- ユニット数 4 台以下で年間売上 1 億円未満
- 新患数の不足
- 稼働率の低さ
この場合、まずは売上の底上げが必要です。マーケティング施策の強化や診療時間の見直しなどが有効です。
2. チェア当たりの生産性の低さ
問題点
- チェア 1 台当たりの月間売上が 200 万円を下回る
- 診療効率の悪さ
- 単価の低い診療に偏っている
利益を残している医院では、チェア 1 台当たりの月間売上は 350 万円以上を維持しています。
3. 経費管理の不備
よくある問題
- 人件費率が 40%を超えている
- 変動費率が 30%を超えている
- 無駄な固定費の発生
経費管理の改善は、すぐに利益率向上につながる重要な要素です。
歯科医院の利益率を改善する具体的方法
自費診療の強化
自費診療の比率を高めることは、利益率改善の最も効果的な方法の一つです。
現状の自費率
- 個人立歯科医院:平均 14.13%
- 法人立歯科医院:平均 22.37%
自費診療強化のポイント
-
カウンセリング体制の充実
- 専任カウンセラーの配置
- 説明用ツールの活用
- 患者の悩みに寄り添った提案
-
技術力の向上
- 最新技術の習得
- 研修・セミナーへの参加
- 専門性の高い治療の導入
-
院内環境の整備
- 設備投資による治療の質向上
- 快適な院内環境の構築
- プライバシーに配慮した空間作り
経費削減のアプローチ
経費削減は以下のフローで進めることが効果的です。
STEP1:目標設定
- 削減目標となる経費額を設定
- 目標利益率を明確化
STEP2:費用分析
- すべての費用項目を詳細に分析
- 固定費と変動費の分類
- 削減可能性の評価
STEP3:削減プランの立案
- 優先順位の設定
- 具体的な削減方法の検討
- 実行スケジュールの作成
STEP4:実行と評価
- 計画の実行
- 効果測定
- 必要に応じた修正
削減可能な主な経費項目
- 水道光熱費(節電・節水対策)
- 通信費(契約プランの見直し)
- 消耗品費(在庫管理の最適化)
- 事務用品費(無駄の排除)
- 旅費交通費(業務効率化)
- 材料費(余剰在庫の削減)
人件費の適正化
人件費は歯科医院の主要な経費項目であり、適切な管理が必要です。
適正な人件費率の目安
- 労働分配率:25 ~ 35%(粗利に対する人件費の割合)
- 人件費率:20 ~ 28%(売上に対する人件費の割合)
40%を超えると利益を残すことが困難になります。
人件費最適化のポイント
-
生産性の向上
- スタッフのスキルアップ
- 業務効率化
- 適材適所の配置
-
評価制度の導入
- 成果に基づく給与体系
- インセンティブ制度
- キャリアパスの明確化
-
外部委託の活用
- 清掃業務
- 経理業務
- マーケティング業務
重要な経営指標(KPI)の管理
歯科医院の利益率を継続的に改善するためには、適切な KPI の設定と管理が不可欠です。
財務指標
1. 変動費率
- 計算式:変動費 ÷ 売上高 × 100
- 目安:20%以下
- 主な変動費:材料費、技工費
2. 粗利率
- 計算式:(売上高 - 変動費) ÷ 売上高 × 100
- 歯科医院の平均:約 80%
3. 労働分配率
- 計算式:人件費 ÷ 粗利 × 100
- 健全ゾーン:25 ~ 35%
業務指標
1. 新患率
- 新規患者の獲得状況
- 月次での推移を追跡
2. 継続来院率(リテンション率)
- 患者の定着度合い
- 治療完了率との関連性
3. 自費選択率
- 計算式:自費選択者数 ÷ (レセプト件数 + レセプトのない自費選択者数) × 100
- 目標:20%以上
生産性指標
1. チェア 1 台当たり売上
- 月間目標:350 万円以上
- 最低ライン:200 万円
2. ドクター 1 人当たり売上
- 生産性の目安
- 技術力向上の指標
3. 1 日当たり患者数
- 稼働効率の把握
- 予約管理の最適化
PDCA サイクルによる継続的改善
利益率の改善は一時的な取り組みではなく、継続的なプロセスです。PDCA サイクルを活用して、常に改善を図ることが重要です。
Plan(計画)
- 目標利益率の設定
- 具体的な改善計画の策定
- KPI の設定
Do(実行)
- 計画に基づく施策の実行
- スタッフへの周知・教育
- 必要なツール・システムの導入
Check(評価)
- KPI の定期的な測定
- 目標との差異分析
- 問題点の抽出
Action(改善)
- 評価結果に基づく改善策の実施
- 次期計画への反映
- 継続的な見直し
まとめ
歯科医院の利益率改善には、以下のポイントが重要です。
重要なポイント
- 業界平均(25-45%)を参考にした現状把握
- 自費診療比率の向上
- 適切な経費管理
- 人件費の最適化
- 継続的な KPI 管理
利益率の改善は、単なる数字の改善ではありません。患者により良い治療を提供し、スタッフが働きやすい環境を整備し、医院の持続的な成長を実現するための重要な取り組みです。
定期的な経営数値の確認と改善施策の実行により、安定した歯科医院経営を実現していきましょう。