街を歩いていると、「また歯医者さんがある」と感じたことはありませんか?実際に「歯科医院はコンビニより多い」という話を聞いたことがある方も多いでしょう。でも、これは本当なのでしょうか?
今回は、2024 年の最新データをもとに、この疑問を徹底的に検証してみました。そして、なぜこのような現象が起きたのか、その背景にある歴史と現在の歯科業界が直面している課題についても詳しく解説します。
2024 年の最新データ:歯科医院 vs コンビニ
まず、気になる数字から見ていきましょう。
2024 年 2 月時点の最新データ
- 歯科医院:66,843 件(厚生労働省「医療施設動態調査」)
- コンビニ:57,978 店(日本フランチャイズチェーン協会調査)
- 差:8,865 件 歯科医院の方が多い
つまり、「歯科医院はコンビニより多い」というのは事実です。しかし、興味深いことに、この差は年々縮まってきています。
過去 10 年間の推移を見ると
年度 | 歯科医院数 | コンビニ数 | 差 |
---|---|---|---|
2014 年 | 68,737 件 | 51,316 店 | 17,421 件 |
2018 年 | 68,791 件 | 55,463 店 | 13,328 件 |
2022 年 | 67,764 件 | 55,956 店 | 11,808 件 |
2024 年 | 66,843 件 | 57,978 店 | 8,865 件 |
歯科医院数は減少傾向にある一方、コンビニ数は増加しており、その差は確実に縮まっています。
都道府県別で見る「多すぎる」の実態
全国平均では歯科医院の方が多いものの、地域によって状況は大きく異なります。
人口 10 万人あたりの歯科医師数(2024 年)
- 全国平均:81.6 人
- 最多:東京都(100 人超)
- 最少:島根県(38.7 人)
東京都内の歯科医師数は 15,790 人に対し、島根県はわずか 338 人。実に約 47 倍の差があります。
この数字が示すのは、「歯科医院が多すぎる」という問題は、実は都市部に集中した現象だということです。
なぜこれほど多くなったのか?昭和 40 年代「虫歯の洪水」から始まった歴史
この現象を理解するには、約 50 年前にさかのぼる必要があります。
昭和 40 年代:深刻な歯科医師不足
1969 年当時、日本は深刻な歯科医師不足に悩まされていました。
- 人口 10 万人あたりの歯科医師数:わずか30 人
- 子どもたちの虫歯が激増(「虫歯の洪水」と呼ばれた)
- 歯科医師の絶対数が不足
国の対策:歯学部の大幅増設
この状況を受けて、国は大胆な対策を実施しました。
- 歯学部・歯科大学の定員を1,100 人から 3,500 人へ急増
- 10 年間で定員を約 3 倍に拡大
- 目標:人口 10 万人あたり 50 人の歯科医師確保
予想を超えた結果
しかし、この政策は予想以上の効果をもたらしました。
- 2010 年:歯科医師数が 10 万人を突破
- 現在:人口 10 万人あたり80 人超(目標の 1.6 倍)
- 結果として「供給過剰」状態に
現在の歯科業界が直面する深刻な課題
数の多さがもたらした問題は、予想以上に深刻です。
1. 史上最多の倒産・廃業件数
2024 年 1-10 月のデータは衝撃的です。
- 倒産・廃業件数:126 件(前年同期比 1.8 倍)
- 2023 年通年の 104 件をすでに上回る
- 2000 年の統計開始以来、最多を記録
2. 深刻な高齢化と後継者不足
歯科業界の構造的な問題が表面化しています。
- 廃業した歯科医院代表者の平均年齢:69.3 歳
- 最高齢は93 歳
- 90%の医院で後継者が未定
3. 経営環境の悪化
複数の要因が重なって経営を圧迫しています。
- 虫歯治療の減少(予防歯科の普及)
- 材料費の高騰(円安による輸入資材コスト増)
- 過当競争による収益性低下
- デジタル化対応コスト(マイナ保険証対応など)
4. 業界の二極化
明確な格差が生まれています。
- 大型医院:多患者対応で増収傾向
- 小規模医院:収益圧迫で減収傾向
- 地域密着型と広域展開型の差も拡大
変化する需要構造:虫歯治療から予防・美容・高齢者ケアへ
歯科医院の多さと同時に、患者のニーズも大きく変化しています。
減少する虫歯治療
- 学童の虫歯罹患率は大幅減少
- 主要収入源だった保険診療が縮小
- 治療中心から予防中心へのシフト
新たな需要の台頭
- 予防歯科:定期検診とメンテナンス
- 審美歯科:ホワイトニング、矯正治療
- 訪問歯科:高齢者への在宅診療
- インプラント:高付加価値治療
特に注目されるのが訪問歯科の需要です。要介護認定を受けた高齢者の 64.3%に歯科治療が必要とされているにもかかわらず、実際に治療を受けているのはわずか 2.4%という現状があります。
2025 年以降の展望:「コンビニより多い」時代の終わり?
複数の要因により、歯科医院数の減少トレンドが続くと予測されています。
減少要因
- 歯科医師の大量退職:60 代以上が半数を占める年齢構成
- 後継者不足:事業承継できない医院の廃業
- 市場の縮小:人口減少と虫歯減少
- 経営環境の悪化:競争激化と収益性低下
国の対策
- 歯科医師国家試験の合格率を抑制(60%前半まで低下)
- 歯学部定員の段階的削減
- 需給バランスの適正化を図る
予測される変化
- 2030 年代には歯科医院とコンビニの数が逆転する可能性
- 地域による格差はさらに拡大
- 都市部での統廃合が加速
まとめ:データが語る歯科業界の現在地
「歯科医院はコンビニより多い」という現象は確かに事実ですが、その背景には複雑な歴史と現在進行中の構造変化があります。
重要なポイント
- 2024 年現在:歯科医院 66,843 件 vs コンビニ 57,978 店
- 歴史的背景:昭和 40 年代の歯科医師不足対策が現在の供給過剰を生んだ
- 現在の課題:倒産・廃業の急増、高齢化、後継者不足
- 将来展望:減少トレンドの継続、需要構造の変化への対応が鍵
この数字の比較は単なる豆知識ではなく、日本の医療政策の結果であり、現在も進行中の社会問題でもあります。今後、私たちが歯科医療を受ける環境も、この変化の中で大きく変わっていくことになるでしょう。
歯科業界は今、量から質への転換期を迎えています。患者一人ひとりのニーズに応える質の高いサービスを提供できる医院が、この変化の時代を生き抜いていくことになるのです。