1日の患者数だけ見ていませんか?歯科医院経営で「見落としがちな指標」と正しいデータ活用術
「うちの医院の1日の患者数は他院と比べてどうなんだろう?」「患者数は把握しているけど、他に見るべき数字はあるのか?」
多くの歯科医院経営者が患者数を最重要指標として捉えがちですが、実は患者数だけでは経営の全体像は見えません。厚生労働省のデータによると、歯科医院の1日平均患者数は約25名(厚生労働省「令和2年度 医療費動向」)ですが、同じ患者数でも収益性に大きな差が生まれているのが現実です。
実際に、患者数は平均的でも収益性の高い医院と患者数は多いのに利益が少ない医院の違いは、患者数以外の重要指標をどれだけ把握・活用できているかにあります。本記事では、歯科医院経営で見落としがちな重要指標と、それらを活用した具体的な経営改善手法について詳しく解説します。
歯科医院の1日の平均患者数の実態
全国平均データから見る現状
厚生労働省「令和2年度 医療費動向」のデータを基に算出すると、歯科医院の1日あたりの平均患者数は以下の通りです:
計算式:4,272万円÷7,606円÷240日=23.4人(厚生労働省「令和2年度 医療費動向」)
また、別の計算方法では、1日あたりの平均患者数=3,972万円÷6,591円÷235日=約25名となっており、20-25人が全国平均と考えられます。
地域・規模による違い
ただし、この数値には大きなばらつきがあります:
立地による違い:
- 都市部の歯科医院:平均30-40人
- 郊外・地方の歯科医院:平均15-20人
- 住宅街の歯科医院:平均20-25人
医院規模による違い:
- 1ユニット医院:15-20人
- 2-3ユニット医院:25-35人
- 4ユニット以上:40人以上
専門性による違い:
- 一般歯科:20-30人
- 小児歯科特化:15-25人
- 矯正歯科特化:10-15人(予約時間が長いため)
患者数の計算方法と注意点
正確な患者数把握のための計算式:
1日の実患者数 = レセプト件数 ÷ 診療日数
注意すべきポイント:
- 自費診療のみの患者はレセプトに含まれない
- 同日に複数科受診した場合の重複カウント
- 月内複数回来院患者の延べ数と実数の区別
患者数だけでは見えない「見落としがちな重要指標」
患者単価(診療報酬点数)の重要性
患者数が同じでも、患者1人あたりの診療報酬に大きな差があります。
全国平均データ:
- 1人1日あたりの医療費:約7,606円(厚生労働省「令和2年度 医療費動向」)
- 優良医院の平均:8,000-10,000円
- 改善余地の大きい医院:5,000-6,000円
患者単価向上の具体例: 患者数25人×単価6,000円=150,000円/日 患者数25人×単価8,000円=200,000円/日 → 同じ患者数で年間1,175万円の差
自費診療比率の管理
自費診療比率は収益性に直結する重要指標です。
業界平均データ(日本歯科医師会調査):
- 個人立歯科医院:14.13%
- 法人立歯科医院:22.37%
自費率向上による収益インパクト: 年間売上4,000万円の医院で自費率を10%から20%に向上させた場合:
- 改善前:保険診療3,600万円+自費400万円
- 改善後:保険診療3,200万円+自費800万円
- → 利益率の大幅改善(自費の粗利率は約70%)
継続来院率(リピート率)
新患獲得コストを考えると、継続来院率は極めて重要です。
目安となる数値:
- 優良医院:75%以上
- 平均的医院:60-70%
- 改善必要医院:50%以下
継続来院率の計算式:
継続来院率 = (前月来院患者のうち当月も来院した患者数)÷ 前月来院患者数 × 100
予約稼働率と時間効率
限られた診療時間を最大限活用するための指標です。
効率的な医院の特徴:
- 予約稼働率:85%以上
- 1時間あたり患者数:3-4人
- キャンセル率:5%以下
非効率な医院の課題:
- 予約稼働率:70%以下
- 1時間あたり患者数:2人以下
- キャンセル率:10%以上
人件費・材料費比率の管理
適正比率の目安(歯科経営実態調査):
- 人件費比率:25-35%
- 材料費比率:10-12%
- 固定費比率:40-50%
危険信号となる比率:
- 人件費比率:40%以上
- 材料費比率:15%以上
- 固定費比率:60%以上
データ活用で経営改善を実現する具体的方法
数値化による課題の見える化
Step 1: 基本指標の数値化 毎日記録すべき基本データ:
- 来院患者数(初診・再診別)
- 診療売上(保険・自費別)
- 予約キャンセル数
- スタッフ稼働時間
Step 2: 週次・月次での分析
- 患者数の推移トレンド
- 曜日別・時間帯別の稼働率
- 診療内容別の収益構成
- スタッフ1人あたりの生産性
計数管理の実践手法
日計表の活用: 効果的な日計表には以下の項目を含めます:
項目 | 目標値 | 実績値 | 達成率 |
---|---|---|---|
来院患者数 | 25人 | 23人 | 92% |
診療売上 | 180,000円 | 175,000円 | 97% |
患者単価 | 7,200円 | 7,600円 | 106% |
自費比率 | 20% | 18% | 90% |
月次レポートでの振り返り:
- 前月比較での増減要因分析
- 目標達成率と課題抽出
- 次月の改善アクションプラン策定
改善すべき指標の優先順位付け
優先度1(即効性あり):
- 患者単価の向上:検査項目の充実化
- キャンセル率の削減:リマインド強化
- 予約稼働率の改善:予約枠の最適化
優先度2(中長期的効果):
- 継続来院率の向上:患者満足度改善
- 自費診療比率の向上:説明スキル強化
- 新患獲得の効率化:マーケティング最適化
優先度3(基盤整備):
- スタッフ生産性の向上:教育・研修強化
- 固定費削減:業務効率化
- 設備投資ROIの改善:計画的な設備更新
効率的なデータ管理を実現するシステム活用
デジタル化の必要性
手作業でのデータ管理には限界があります。特に以下の課題が顕著です:
手作業管理の問題点:
- データ入力ミスのリスク
- 集計・分析に膨大な時間が必要
- リアルタイムでの状況把握が困難
- スタッフ間での情報共有が非効率
デジタル化による改善効果:
- 自動集計によるミス削減
- リアルタイムでの経営数値把握
- 過去データとの比較分析が容易
- グラフ・チャートでの視覚的把握
統合管理システムの活用
これらの課題を解決するため、多くの歯科医院で予約管理と経営分析を統合したシステムの導入が進んでいます。
例えば、Hanaviのような歯科医院向け統合システムでは、以下の機能により効率的なデータ管理が可能です:
経営ダッシュボード機能:
- 日次・月次の来院患者数自動集計
- 診療売上の自動分析
- 患者単価・自費率の推移グラフ
- 予約稼働率のリアルタイム表示
データ分析機能:
- 過去データとの比較分析
- 曜日別・時間帯別の患者動向分析
- スタッフ別生産性の可視化
- 改善提案の自動生成
予約管理との連携:
- 予約状況と経営数値の統合表示
- キャンセル率の自動計算
- 患者来院パターンの分析
- 適切な予約枠設定の提案
このようなシステムを活用することで、これまで手作業で数時間かかっていた集計・分析作業が数分で完了し、より戦略的な経営判断に時間を使えるようになります。
まとめ:総合的な経営指標管理で持続可能な成長を
歯科医院経営において、1日の患者数は確かに重要な指標の一つです。しかし、患者数だけに注目していては、真の経営改善は実現できません。
重要なのは以下の総合的アプローチ:
- 患者数×患者単価 で売上最大化を図る
- 自費診療比率 で収益性を向上させる
- 継続来院率 で安定的な患者基盤を構築する
- 予約稼働率 で時間効率を最適化する
- コスト比率管理 で利益確保を実現する
これらの指標を継続的に管理・改善していくことで、患者数に依存しない安定した経営基盤を構築できます。
また、これらのデータを効率的に管理するためには、適切なシステムの導入も検討すべきでしょう。手作業での管理には限界があり、デジタル化によってより戦略的な経営判断に集中できる環境を整えることが、競争激化する歯科医院業界での成功に不可欠です。
まずは現在の数値を正確に把握することから始め、段階的に改善施策を実行していきましょう。データに基づいた経営判断こそが、持続可能な歯科医院経営の鍵となります。
参照ソース
- 令和2年度 医療費動向 - 厚生労働省
- 歯科診療所の経営分析 - 日本歯科医師会
- 歯科医院の経営指標 - デンタルブック
- 歯科医院経営の実態調査 - デンタルプラザ
- 歯科医院の業績改善指標 - インサイト