歯科医院の価格設定戦略:自費診療率を無理なく上げるには?

📅 2025年6月25日
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歯科医院の価格設定戦略:自費診療率を無理なく上げるには?
ざっくり要約
2024年診療報酬改定を踏まえた歯科医院の自費診療率向上戦略。診療報酬制度の理解から段階的価格設定まで、無理のない収益改善方法を詳しく解説します。

歯科医院の価格設定戦略:自費診療率を無理なく上げるには?

歯科医院経営において、自費診療率の向上は収益安定化の重要な要素です。2024年度診療報酬改定では本体が+0.88%となったものの、歯科医療機関の現場の実態とかけ離れており、厳しい経営環境は続いています。

こうした状況下で、多くの歯科医院が注目しているのが自費診療率の向上です。第24回医療経済実態調査によると、歯科診療所の自費診療収入は全体の21.4%を占めており、保険診療収入の76.1%と比較すると、まだ成長の余地があることがわかります。

本記事では、診療報酬制度の基本理解から実践的な価格設定戦略まで、歯科医院が無理なく自費診療率を向上させるための具体的手法を詳しく解説します。

歯科診療報酬の現状と自費診療の重要性

2024年診療報酬改定の影響

2024年度診療報酬改定では、歯科医院にとって大きな制度変更が実施されました。現行の「か強診」が削除され、「口腔機能管理体制強化加算」に全面移行、「外来環」が廃止され、「歯科外来診療医療安全体制加算」と「歯科外来診療感染対策加算」の2つに分けられるなど、より高い水準の施設基準に変更されています。

これらの変更により、特に小規模な歯科医院では新しい施設基準への対応やデジタル化への投資が負担となる可能性があります。一方で、早期に対応することで真の予防歯科としてのブランディングも可能になると考えられています。

全国の自費診療率の実態

厚生労働省の医療経済実態調査によると、歯科診療所における自費診療等収入の割合は21.4%となっています。これは個人の歯科診療所(17.6%)と比較して高い数値ですが、まだ向上の余地があります。

過去3年間(2020年から)の平均自費率は、個人歯科医院で14.13%、歯科医院法人で22.37%となっており、全国的に歯科医院の自費診療率は10-15%の範囲にあることが多いのが現状です。

保険診療の制約と限界

保険診療は固定された診療報酬点数制度により、収益性に限界があります。特に、中央社会保険医療協議会のデータでは、診療報酬点数や1件当たり平均点数が減少傾向にあり、「歯冠修復及び欠損補綴」では特に顕著な減少が見られています。

また、日本の高齢化により医療費が急激に増加しており、75歳以上の医療費が全体の35.2%を占める状況下で、保険診療の制約はさらに厳しくなることが予想されます。

診療報酬制度の基本理解

点数制度の仕組み

日本の歯科診療報酬は点数制度により運用されており、1点=10円で計算されます。基本診療料、医学管理等、検査、画像診断、投薬、注射、リハビリテーション、処置、手術、麻酔などの各項目に点数が設定されています。

保険診療では、これらの点数が厚生労働省により固定されているため、治療内容に関わらず収益の上限が決まってしまいます。これが保険診療の収益性に限界がある理由の一つです。

保険診療vs自費診療の収益構造

保険診療を中心とした歯科医院の平均利益率は約25%ですが、自費診療を積極的に取り入れている歯科医院では平均利益率が約45%に向上することが報告されています。

自費診療では、治療内容と患者のニーズに応じて適切な価格設定が可能であり、より高品質な材料や技術を使用できるため、患者満足度の向上と収益性の両立が実現できます。

2024年改定で新設された制度

2024年改定では、「医療DX推進体制加算」や「オンライン初診・再診料」などが新設され、デジタル歯科医療の推進が図られています。また、光学印象を行う際の施設基準が新たに設定され、CAD/CAM冠の適応拡大も実施されました。

これらの新制度は、歯科医院のデジタル化投資を促進する一方で、対応できた医院にとっては差別化の機会となる可能性があります。

自費診療率向上の戦略的メリット

利益率約2倍の収益効果

自費診療は保険診療と比較して約2倍の利益率を実現できます。これは、保険診療の固定点数制約がなく、治療内容と価値に応じた適切な価格設定が可能だからです。

例えば、少数の自費患者でも収益に大きな影響を与えることができ、経営の安定化に寄与します。

治療の質向上と患者満足度

自費診療では、保険診療の制約を受けずに最適な治療法を選択できます。より高品質な材料の使用、十分な治療時間の確保、個別化された治療計画の提供により、患者満足度の向上が期待できます。

多くの患者が「より良い治療を受けたい」と考えており、適切な説明と選択肢の提示により、自費診療を選択する患者は増える傾向にあります。

経営安定化への寄与

自費診療率の向上により、診療報酬改定の影響を受けにくい収益構造を構築できます。保険診療のみに依存した経営では、制度変更により大きな影響を受けるリスクがありますが、自費診療の割合が高い医院では、より安定した経営が可能になります。

段階的価格設定戦略の実践

患者セグメント別アプローチ

効果的な自費診療率向上には、患者をセグメント化したアプローチが重要です。

価値重視層

  • 最高品質の治療を求める患者
  • 審美性や機能性を重視
  • 価格よりも結果を重視

バランス重視層

  • 保険診療の限界を理解している患者
  • 適度な品質向上を求める
  • コストパフォーマンスを重視

保険診療中心層

  • 経済的制約がある患者
  • 保険診療での治療を希望
  • 段階的な価値提案で転換可能性あり

信頼関係構築の重要性

自費診療の成功には、患者との信頼関係が不可欠です。患者が自費診療を選択する主な理由として「この先生になら任せられる」という信頼感が挙げられます。

信頼関係構築のポイント:

  • 十分な説明時間の確保
  • 治療選択肢の客観的提示
  • 患者の価値観や希望の尊重
  • アフターケアの充実

価格提示のタイミングとコミュニケーション

価格提示は、患者が治療の必要性と価値を十分に理解した後に行うことが重要です。

効果的な提示の流れ

  1. 現状の問題点の説明
  2. 治療選択肢の詳細説明
  3. 各選択肢のメリット・デメリット
  4. 患者の希望や価値観の確認
  5. 推奨治療法の理由説明
  6. 費用の詳細説明
  7. 支払い方法の選択肢提示

成功医院の実践事例

自費率50%達成医院の戦略

ある地方都市の歯科医院では、以下の戦略により自費率50%を達成しています:

専門性の明確化

  • インプラント治療への特化
  • 最新設備への積極投資
  • 継続的な技術研修の実施

患者教育の徹底

  • 治療説明用の動画やモデル活用
  • パンフレットやWebサイトでの情報提供
  • 患者向けセミナーの定期開催

スタッフ教育の強化

  • 自費診療に関する知識共有
  • コミュニケーション研修の実施
  • インセンティブ制度の導入

地域特性に応じた価格設定

地域の経済状況や患者層に応じた価格設定も重要な成功要因です。

都市部の戦略

  • 高品質・高価格路線
  • 審美性重視のメニュー充実
  • 利便性(夜間診療等)の提供

地方部の戦略

  • 機能性重視のメニュー設定
  • 分割払いオプションの充実
  • 地域密着型のサービス提供

スタッフ教育とチーム医療

成功している医院では、スタッフ全員が自費診療の価値を理解し、適切に患者に伝えられる体制を構築しています。

教育内容

  • 保険診療と自費診療の違い
  • 各治療法のメリット・デメリット
  • 患者への説明技術
  • 価格提示のタイミング

2024年改定対応と今後の戦略

デジタル化推進の機会

2024年改定で推進されているデジタル化は、自費診療の質向上にも活用できます。光学印象システムやCAD/CAM技術の導入により、より精密で審美性の高い治療が可能になります。

これらの技術は初期投資が必要ですが、長期的には治療の差別化と自費診療率向上に寄与します。

新制度への対応方法

新設された各種加算や制度に対応することで、保険診療収入の最大化と並行して自費診療の基盤を整備できます。

対応のポイント

  • 施設基準の早期クリア
  • スタッフの継続的な研修
  • 設備投資計画の策定
  • 患者への価値提供の明確化

長期的経営戦略

今後の歯科医院経営では、保険診療と自費診療のバランスを取りながら、持続可能な収益構造を構築することが重要です。

戦略的方向性

  • 専門性の確立と差別化
  • 患者満足度の継続的向上
  • デジタル技術の積極活用
  • 地域ニーズへの対応強化

まとめ:無理のない自費診療率向上の実現

歯科医院の自費診療率向上は、一朝一夕で実現できるものではありません。患者との信頼関係を基盤として、段階的に取り組むことが重要です。

成功のための5つの基本原則

  1. 患者との信頼関係構築:十分な説明と患者の価値観尊重
  2. 段階的なアプローチ:無理な営業ではなく選択肢の提示
  3. スタッフ教育の徹底:チーム全体での価値共有
  4. 適切な価格設定:地域特性と患者層を考慮した戦略
  5. 継続的な改善:患者満足度向上と技術研鑽の両立

持続的成長に向けて

2024年診療報酬改定を契機として、歯科医院経営のデジタル化と効率化がさらに重要になっています。保険診療の安定化と自費診療の向上を両立させることで、厳しい経営環境でも持続的な成長を実現できるでしょう。

患者にとって真に価値のある医療を提供することで、自然と自費診療率は向上し、歯科医院の経営安定化につながります。本記事で紹介した戦略を参考に、無理のない範囲で段階的な取り組みを進めてください。

参照ソース

  1. 令和6年度歯科診療報酬改定のポイント - 白根歯科クリニック
  2. 2024年度診療報酬改定の要点〈歯科〉 - 兵庫県保険医協会
  3. 歯科医院の自費率アップ そのメリットと具体策 - あきばれ歯科経営online
  4. 自費率が高い歯科医院は何が違う? - MIC
  5. 歯科医院の利益率は少ない?歯科医院のお金の仕組みや利益率を高めるための方法を解説 - 東京ドクターズ